研究概要 |
精神分裂病患者では,加齢と共に精神症状が静穏化すると知られている.また,加齢と共に独特の性格変化が出現するとされている.しかし,それらの知見の多くは臨床的観察をもとにしたものが多い.そこで,そのような分裂病患者の特徴を臨床心理学的方法を使用して明らかにしようと試みた.使用した臨床心理学的検査は日本版GHQ(The General Health Questionnaire)とバウム・テストであった.GHQでは身体・心理的自覚症状を調べ,バウム・テストでは描かれた樹木の形態ならびに表現の質を検討することでパーソナリティを明らかとする.被験者は東京都内の2つの精神病院ならびに群馬県下の2つの精神病院に入院中の60歳以上の分裂病患者である.対照群は4病院に入院中の精神病以外の患者,ならびに都内の老人ホームに生活する痴呆の疑いのない健常老人を当てた.平成9年度は,4つの精神病院ならびに老人ホームに対し検査依頼を行い,データ収集を始めた.検査実施中の症例観察からすると,老年期に達した分裂病患者では,夜中に目を覚ますことがある等の睡眠障害の訴え,希望がない,死を考えたことがあるとった希死念慮に関する項目の反応が多い.バウム・テストでは用紙の使用範囲が狭く,木の大きさが小さい,平行幹,幹上下開放,一線枝,樹冠なしといった特徴が多く認められる.こうした描画はパーソナリティの退行を表すが,痴呆患者にみられる木にならない表現はみられず,痴呆患者と同等の退行は示していない.以上のような観察結果を,平成10年度では,より多人数の症例で確認し,さらに平成11年度では分裂病患者のパーソナリティの特徴を数量的に明らかにする.
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