精神分裂病患者では加齢とともに精神症状が改善することが知られているが、長期入院の患者においてもそうなのであろうか。このことを検討するために3つの研究をおこなった。研究1では横田式記憶テストを使用し、中年期と老年期に達した正常者と分裂病患者の記憶機能について検討した。分裂病患者では多くの下位テストにおいて中年期と老年期のいずれにおいても正常者より成績が劣り、中年期から老年期にかけての成績の低下は正常者と同様であった。このことから患者における加齢の影響は正常者におけると同様に働いていると結論付けられた。研究2ではバウム・テストと精神健康調査票(GHQ)を使用し、分裂病患者における加齢の影響を検討した。患者の描画は、中年期より老年期において写実性が高まり、非整合性が低下したが、同時に活動性も低下した。このことから患者における加齢の効果は、描画の質を高めるものであることが明らかにされ、加齢による精神症状が改善するという所見を心理テストから明らかにした。一方GHQでは中年期と老年期の間で有意な差はみられず、睡眠障害、抑うつといった心身の状態には、加齢の影響が認めがたかった。研究2では中年期と老年期の患者を対象にしたが、描画にみられた改善傾向は個人内においても認められるかどうか明らかではなかったので、研究3では高齢分裂病患者に1年以上の間隔をあけて2回バウム・テストを実施し、描画の質を縦断的に検討した。その結果、研究2で認められた傾向は、縦断的検討においても認められ、2回目の描画において、写実性は高まり、非整合性は低下し、活動性は低下した。以上のように患者の記憶機能は加齢とともに低下するが、その低下は分裂病の疾患過程によるものというよりは通常の加齢による過程を反映していると思われた。これに対し、描画は、老年期には改善し、写実性が高まり、非整合性が低下するが、活動性は低下した。
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