研究概要 |
I.日本人の精神性を「他者に対する共感」という観点からみた研究:重い病気を持ちながらも経済的に苦境にある人物への援助行動を指標に、2(自尊心の高低)×2(共感の高低)×2(予期される感情の良悪)の計画による実験を行った。重要な結果は、次の二つである。(1)(援助の実施とは無関係な)望ましい感情の高揚が期待される状況においてこそ、共感の操作の効果があり、高い共感をいだくように教示された被験者は、苦境にある同性の人物へ多くの援助行動を申し出た。これは、共感が高ければ、利己性を越えて、他者を援助するとしたDaniel Batson(1991)の結果に制約を与えるものとなった。来年度は、ここで操作した「予期される感情の良悪」をさらに鋭敏にすることによって、この現象の意味を検討したい。(2)自尊心の高い者は、共感することによって、他者との心理的距離を置こうとする。“この人は心から可愛そうだと思う、でも、私とは異なっている"という対処をするのである。これは、自尊心を高揚することが現代社会を生きていくうえで不可欠な要素であるならば、自尊心の高い者にとって、他者への共感を高めることは、真の意味での美徳として機能しないこと、つまり、ある種の矛盾を示唆するものである。ここで指標として「心理的距離」の種類を豊富にすることによって、この結果の内容をさらに深める必要がある。 II.日本人の精神性を「重要なものを断念すること」という観点からみた研究:大学生ではなく、社会生活の経験の深い成年(壮年〜老年)層を対象に聞き取り調査を行った。(1)自己直視性(八木,1995)の高い者ほど、断念するのが困難であるという結果が得られた。これは、自己直視性の感受性の高さを反映する結果であるのか、それとも、自我防衛(弱さ)としての自己直視性の高さを反映するものであるのかを、自己直視性の概念の理解の深化を通して、さらに検討しなければならない。現在の考えは、次のようなものである。感受性の高い自己直視性の高い者は、競走社会に適応して生きていくために、高い自尊心を必要とし、自尊心という武器を備えることによって、自己直視性の本来の機能を発揮できるのではないか。この見解をさらに深めたい。 III.ユニークネス剥奪の操作に対する反応をみた調査実験:自己直視性の高い者ほど、自己のユニークネス性に脅威を受けた場合、内集団ひいきという反応を示した。この結果もIIと絡めてさらに検討したい。これは自我防衛といえるのか否かを。
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