近年、「国際的に貢献できる人材の育成」は、日本社会の重要な課題となっている。しかし、国際理解教育や異文化トレーニングについては、社会的な要請や理想主義的な理念に導かれている傾向が強く、実証された理論や学習モデルが欠けている。本研究は、異文化環境下で仕事や勉学の目標を達成し、文化的・言語的背景の異なる人々と好ましい関係をもち、個人にとって意味のある生活を可能にするための能力や資質を「異文化間能力」ととらえ、その概念や構造を明らかにし、日本人の「異文化間能力」の実態に依拠したより現実的な方策を探ることを目的としている。本研究は、文献研究と調査研究から構成されており、異文化理解や多文化共存をめざす教育実践の効果を高めるための理論モデルの構築と評価研究のモデルの提案を試みる。 本年度は、文献研究と予備調査を3つ行った。文献研究では、従来あまり関連づけられてこなかった3つの分野(心理学、米国の統合教育の評価、異文化トレーニング)の研究、及び日本人の国際意識に関する実態調査を概観した。「異文化間能力」の学習モデルを明確化するためには、異文化接触場面における心理的「プロセス」の記述を重視する必要があること、また「認知」的学習モデルの有効性が示唆された。日本人の「異文化間能力」の実態をさぐる予備研究として、まず、大学生が諸外国をどのように見ているのかについて、「世界へのイメージ調査」によって検討し、次に、シミュレーション・ゲーム(SIMSOC)を用いて開発援助に対する態度構造とその変化について考察した。最後に、「関西のNGOに関する調査」を行い、海外協力の場面で活躍する日本人にどのような資質や能力が求められているのかを明かにした。日本人大学生の他国に対する態度は、「欧米志向」が依然として強いことが示された。しかし、シミュレーション・ゲームヘの参加は、開発途上国に対する態度や社会のあり方についての認知に変化を及ぼすことが示され、異文化に対する学習モデルの構築に向けて、有用な手がかりが得られた。NGOで働く日本人については、語学力と専門的能力への期待が大きく、「自分さがし」や「慈善事業イメージ」を持ち込まないでほしい等のコメントが得られた。
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