本研究は、「異文化間能力」を多文化社会で求められる能力と位置づけ、(1)この概念が意味のある、到達可能な能力であるのかどうかを検討し、(2)異文化理解や多文化共存をめざす教育実践の効果を高めるための理論モデルを構築し、(3)具体的な教育方法の方策を探ることを目的とする。本研究は、文献研究と実証的研究の2種類から構成されている。文献研究は、心理学、米国の統合教育に関する評価研究、異文化トレーニング・異文化コミュニケーションの3つの分野を概観し、(1)異文化間能力の構造を明確化し、(2)異文化接触過程とそのインパクトに関する理論モデルについて検討した。実証的研究では、(1)異文化接触を体験した社会人や国際援助・協力のボランテアを対象に、日本人が言語や文化的背景の異なる人々と仕事やボランテア活動をする際に求められる資質についての考え方についての質的データーからその枠組みを明らかにした。また、異文化体験者の認知や態度の構造を明らかにするために、4種類の数量的データ・セットの分析を行った。文献的研究と実証的研究結果の統合的な考察に基づき、「異文化間能力」についての理論モデルを提案した。異文化体験のインパクトについては、態度や行動面における変化と認知的な側面における変化の間には、非線形的な関係が見られること、海外体験による自己変化は外国や他文化についての知識やグローバルな問題についての関心や知識の間には直線的な関係は見られなかった。本研究の知見は、他国についての理解から多文化共存へとその目的が変化しつつある日本の国際理解教育の実践のあり方やその効果の測定方法についての示唆を与えるものである。
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