日本においては、近年、「国際的に貢献できる人材の育成」という課題がますます重要となってきており、「教育の国際化」が推進されている。しかし、国際理解教育や多文化教育は、社会的な要請や理想主義的な理念に導かれて生まれた教育プログラムであるため、実証された理論や学習モデルが欠けている。本研究は、異文化環境下で仕事や勉学の目標を達成し、文化的・言語的背景の異なる人々と好ましい関係をもち、個人にとって意味のある生活を可能にするための能力や資質を「異文化間能力」ととらえ、その概念や構造を明らかにし、日本人の「異文化間能力」を高めるための方策を探ることを目的としている。本研究は、文献研究と実証的研究の2種類から構成されている。文献研究は、心理学、米国の統合教育に関する評価研究、異文化トレーニング・異文化コミュニケーションの3つの分野を概観し、(1)異文化間能力の構造を明確化し、(2)異文化接触過程とそのインパクトに関する理論モデルについて検討した。実証的研究では、(1)異文化接触を体験した社会人や国際援助・協力のボランテアから得られた、日本人が言語や文化的背景の異なる人々と仕事やボランテア活動をする際に求められる資質についての質的データーの分析、(2)山岸ら(1992)の「異文化対処力」の測定モデルを発展・検証するための基礎研究、(3)模擬社会ゲームの体験内容の検討、を行った。文献的研究と実証的研究結果の統合的な考察に基づき、「異文化間能力」についての理論モデルを提案した。本研究の知見は、他国についての理解から多文化共存へとその目的が変化しつつある日本の国際理解教育の実践のあり方やその効果の測定方法についての示唆を与えるものである。
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