本研究では、成人女性の自我同一形成と社会的・家庭的役割の遂行や職業イメージ、満足度などの関係を明らかにすることを目的とした。平成9年度は、20歳代後半から50歳代の看護婦有資格者740名を対象に調査紙による調査を行った。調査紙の内容は2種類で、自我同一性の測定には遠藤らによる19項目からなる測定尺度を用い、他の9項目の自我同一性の形成要因に関しては、研究者の作成した調査項目を用いた。調査の回答者は319名(46.9%)であった。結果の処理は、数量化II類による分析とχ^2検定を行った。平成10年度は、自我同一性達成度の高位群12名、低位群4名の合計16名に対して面接調査を実施した。面接調査には、職業生活、結婚・家庭生活、趣味や社会活動に関する半構成的な質問紙を作成し用いた。調査の結果、次の2つの点が明らかになった。(1)同一性達成度に最も影響を与えていた職業生活における役割は、職場での上司や部下としての役割で、職業観や職業上の満足感の同一性に対する関与も高く、職業生活の充実は成人女性の同一性形成において重要な意味を持つ。(2)結婚・家庭生活に関する役割では、母親としての役割との関係が大きく、効果的な役割移行は肯定的な同一形成をもたらすが、非効果的な場合は、同一性の混乱を生じさせる。今後の課題としては、女性の自我同一性の危機と考えられる30代における役割移行を効果的に行うための検討が必要である。
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