本研究の目的は、現場の教師の不適応児への対処と理解を援助するために、学校での適応・不適応に学級風土および仲間集団の力動関係が及ぼす影響について臨床・社会心理学的視点から検討することである。また、長期にわたる縦断的研究を行うことで仲間関係の形成・変動パターンと不適応児の位置づけとの関連を詳細に分析する。本年度は調査対象として、全学年単学級構成のA小学校3年生1クラス、各学年4学級程度のB小学校3年生と5年生各1クラスを選定した。実施した質問紙は、(1)学習と遊び場面のソシオメトリック・テスト。併せて選んだ相手が自分を選ぶ可能性、自分に対する相手の機能の評定。(2)実際に遊ぶ友人を測定するリアルメトリック・テスト。併せて遊ぶ頻度等に関する評定。(3)学級雰囲気。(4)スクール・モラール。またA小学校に関しては、学校行事および普段の学級観察を通して、各児童の言動、級友や先生との関わりの特徴に関するデータを収集した。本年度は、特に不適応児の選定(今後のターゲットとなる)と、基盤となる学級風土および学級集団構造の特徴について検討した。結果は多岐にわたるためその一部を列記する。まず学級集団構造に関しては、男子は比較的大きなサブ・グループからなるピラミッド型構造、女子は小さな固いサブ・グループが分散した構造が見られた。また友人関係の機能に関しては、全般的に情緒的サポートを求める傾向が強かった。次に学級風土に関しては3クラスともに総じて評価が高く、学級風土を特に低く評定した不適応児はいなかった。さらにデータ及び教師との面談から(1)家庭環境の影響を考慮する必要性、(2)異なるタイプの不適応児の存在、(3)何らかの認知的障害が友人との関わりの拙さに影響しているケースの可能性などの問題が浮かび上がった。来年度以降、ここで得られた基礎的データをもとに学級集団構造および学級風土の継続的調査を行いながら、不適応児のタイプとそれに対する教師の効果的アプローチの支援に向けた研究を継続的に行う。
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