(1)本研究は、経済のグローバリゼイションのなかで大きな社会問題となってきた労働時間短縮問題を研究テーマとし、労働時間短縮・経営合理化・勤労意欲の関係を分析した。 (2)調査対象は私鉄産業の広島電鉄を設定した。私鉄産業は労働集約産業であるため、労働時間短縮の必要性が強い。また広島電鉄は、労働組合の組織統一の直後で労使関係が混沌とした状態にあり、労働時間短縮が労使関係に与える影響が明らかになりやすい。 (3)調査研究の結果、経営側は労働時間短縮を厳しい経営合理化とセットにして実施しており、「完全週休2日制」による労働時間短縮は、圧倒的な経営側優位の下で「変形労働時間制」として実施されている。この結果、乗務員は長時間・過密労働となり、不満が激発し、勤労意欲は著しく低下し、職場の労使関係は緊張をはらんでいる。 (4)労働者の不満は労働強化を受諾した組合執行部にも向けられ、執行部と組合員の間に緊張が高まっている。執行部はダイヤ編成、仕業の組み方などで事態の打開を模索している。その結果、少しずつ労働強化は緩和されつつある。 (5)最近、市場競争主義による規制緩和が急速化している。私鉄産業ではバス部門が2001年秋に規制緩和になる。広島電鉄でも規制緩和に備えて、機構改革(社内分社化)、賃金制度改革(年功給から能力給へ)、バス部門の分社化へと経営合理化は急テンポである。組合側は交通政策による収入増を対置するが、経営側の圧倒的な攻勢が続いている。 (6)日本全体の圧倒的な経営優位型労使関係の中で組合優位型労使関係を維持していた広島電鉄において、規制緩和・経営合理化によってドラステイックな労使関係の転換が進行している。今後、この労使関係はどのように推移するのか、注目したい。
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