予備研究として、アメリカ合衆国で提出された社会学ならびに隣接領域の学位論文を30点あまり集め、精査した。この結果、権力研究の最近の理論的動向が明らかになった。それらは大別して、政治権力の作動の実態を行政機構のなかにさぐるもの、ミクロ場面での権力の作用をエスノメソッド等を用いてさぐるもの、権力概念の叙述のされ方や歴史的発展を文献のなかにさぐるもの、に三分された。 つぎに、権力モデルのフォーマライゼーションを試みた。予期理論、ゲーム理論における権力概念の限界を指摘しつつ、ミクロ/マクロ・リンクの特殊ケースとしての権力概念の再構築をはかった。権力体験→権力に言及する仕組み→権力の実態視→権力の制度と展開するロジックを、ほぼたどることができた。この再構築は、ウェーバー、パーソンズ、ルーマンの権力研究を踏まえつつ、権力の概念を比喩やアナロジーから離れて、厳密かつ精確に構成するものである。 こうした研究の過程で、東京大学教授・内田隆三氏、京都大学教授・大澤真幸氏らとの討論が有効であった。以上の成果は、『〈言語〉派社会学の原理論』 (特にその最終章)として洋泉社から刊行すべく、準備中である。
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