高度に情報化した現代社会では、これまでの近代的人間観や社会観がその妥当性を失いつつあるが、この点についてのこれまでの研究は不充分であった。本研究では、現代人の曖昧な自己意識や状況主義的行動を積極的に肯定し、今後の情報化社会にあり得べき社会的性格と個々人のアイデンティティの存立様式を追究することができた。 現代人の振舞いは、軽薄でその場主義的であるという批判を受けるが、学問的研究においても事情は同じであり、始めからこの種の行動様式を望ましくないものと決めつけている。しかし、そのような研究姿勢そのものが近代個人主義的な発想を出ることのできない狭い視野に捕らわれたものである。本研究では思い切ってこの予断を捨て、同様の展望を備えた最近の研究業績を踏まえながら、現実の生活感覚に立って現代人の存在様式に迫った。 具体的には、主として社会的性格の変遷、特に第二次大戦後の自己論・アイデンティティ論に関する文献を購入、検索・複写し、D・リースマン以降の他人志向的性格づけが現段階でどの程度妥当性を持つものであるかを検証した。また、E・ゴフマンの演技論的アプローチやE・H・エリクソンの自己同一性概念が、いかなる情勢の中でその妥当性を失いつつあるかを検討し、これらの先行研究を踏まえて、より積極的な形でポスト近代社会における社会的性格とアイデンティティの可能性について検討を加えた。
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