1990年代に入って国際的に障害者法制の整備と障害者施策の進展をみている。国際障害者年の長期行動計画の総括期である1990年代半ばまで、英語圏域の諸国の障害者法制において、障害者の社会参加の促進および障害者に対する差別を禁止する法律の制定という特徴を確認することができた。具体的には、次のような成果があった。 第一に、国連などの国際機関における障害者施策の国際的な動向を把握し、特に国連における法制および障害者政策などについて分析を行った結果、「障害者の機会均等化に関する基準規則」の採用など、国際社会は、障害をもつ人たちの人権についての認識へ向けた決定的な段階に至っていることが確認された。 第二に、英語圏域における障害者施策を規定する障害者法の成立の動向を検討した結果、単独の障害者法が成立していることが確認された。アメリカの「1990年障害をもつアメリカ人法」、オーストラリアの「1992年障害についての差別に関する法律」、イギリスの「1995年障害についての差別に関する法律」である。これらは、障害についての差別を払拭するための社会的規制法として誕生したものであった。 第三に、カナダ、ニュージーランドにおいて人権法制の中に障害者規定が盛り込まれ、それによって障害者の権利が確認されるという動向について資料収集をおこなった。カナダについては、「権利と自由のカナダ憲章」及び「カナダ人権法」における障害者規定、ニュージーランドについては、「1993年人権法修正」である。これらの動向の検討は十分できなかった。 第四に、英語圏の動向と関連した動向として「アジア太平洋の障害者の10年」におけるアジア・太平洋地域の障害者施策の状況も考慮し、フィリピンやインドの動向についても資料収集と分析をおこなった。 第五に、南アフリカなどの発展途上国における障害者雇用などの資料を収集することができた。 以上が本研究の概要であるが、本報告書では、国際的動向及びアメリカ、オーストラリア、イギリスなどの障害者施策の前提となる障害者法制についてのまとめをおこなっている。カナダおよびニュージーランドの障害者法制と障害者施策、インドや南アフリカなどの障害者法制、および、本報告書で検討した国際的動向を踏まえて、わが国の障害者法制と障害者施策の課題の明確化などは、他日を期したい。
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