本研究の目的は、明治末からゴム靴製造、マッチ軸工場、造船業を中心とした工業地域として発展を重ねてきた神戸市長田区に住む奄美地域出身者や在日韓国・朝鮮人などの低所得労働者層が阪神・淡路大震災で被災したなかでどのように生活復興をしていったかを明らかにすることにある。 ところで、奄美地域出身者や在日韓国・朝鮮人などの都市下層マイノリティ層の震災からの生活復興を考える際、同郷集団や民族集団が大きな役割を果たしている。そこで、本年は住民個々の生活復興をめざした生活対応や同郷・民族集団の生活復興をめざした活動の特質を、住民個々の生活史や神戸市、長田区の地域形成過程をふまえながら明らかにしていく必要があると考え、 1長田区を中心とした神戸市の社会構造・社会集団・社会関係に関する史的資料の収集、調査、 2奄美地域、および鹿児島市においてこれら地域の地域構造を明らかにするための資料収集、聴き取り調査、 3またこれらの人々の神戸市における生活基盤となった社会関係の形成過程を明らかにするために、奄美地域出身者の同郷集団及び在日韓国・朝鮮人の民族集団の聴き取り調査や、奄美地域出身者のおよび在日韓国朝鮮人の生活史調査、などをおこなった。 これらを通して明らかになったのは、日本の産業化のなかで農民層分解を前提として形成されていった近代産業都市「神戸」の特殊性であり、その「神戸」の中で軽工業地帯として形成されていった長田区の特殊性である。またともに不安定就労に従事せざる終えなかった奄美、韓国・朝鮮出身者は「被差別者」としての同質性があり、ここに都市定住にあたって同郷団体に依存せざるを得ない側面があることが明らかになった。
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