医療サービスの提供者側の価値志向や欲求を同一条件とみなした場合、意思決定に作用する要因として情報は重要なものであるが、検査、診断および治療における医師の意思決定は、その課題内容に応じて医師が参照する一定の情報回路-たとえば、専門学会・研究会、マスメディア、専門雑誌、インターネット、職場の同僚など-の布置状況に左右される。これらの布置状況が医師という専門家の参照システムである。 同様に患者の意思決定、すなわちどのような医療機関で受診するか、あるいは治療を停止するかの意思決定は、患者の欲求や価値志向のみならず、患者の「素人」参照システムに大きく依存しているように思われる。 この素人参照システムには近年、インターネットを含む各種マスメディアが多く組み込まれるようになってきている。と同時に患者が情報発信者と直接相互行為を行わないこのような情報媒体が普及する一方で、従来型の家族、親族、近隣居住者、友人、職場の同僚、医療機関で出会った外来患者などとのパーソナルな対面的・非対面的コミュニケーションを通した参照情報の回路は依然として重要性を失っておらず、それらを通した情報収集も活発である。 ところで病気と身体障害や知的障害、大人と子どもといった条件により人の医療行動は多様である。初年度は、子どもでありかつ知的障害があるという条件を持つ対象者世帯約30世帯を抽出し、その医療行動に注目しながらアンケート調査、面接聞き取り調査等を実施した。子どもであるということと知的障害があるという二重の意味において「患者」の医療行動の意思決定が、多くの場合、親の手に委ねられている。したがって患者本人よりも、親の情報収集行動に注目して調査を企画、実施した。その結果は目下分析を進めている最中であるが、親は課題内容により専門家や素人、各種メデイアを参照情報の相手として適宜選択していることが次第に明かとなりつつある。
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