本研究の中心的な課題は、都道府県別、市町村別の統計資料を基に自殺率を「高く」もしくは「低く」している要因を探り、自殺防止の方法について検討することである。具体的には、自殺率は地域により異なった率で出現しているが、この自殺現象を地域の集団現象と考えた場合、地域によって見られる自殺率の差異は、地域の性格つまり地域社会を構成している社会的な要因の違いにあるのではなかという仮説のもと、自殺率が地域を構成する社会的な要因とどのように関係するのかを明らかにすることである。従って、ここでは把握可能な数量化されうる範囲での自殺既遂者本人の置かれている社会的及び生活環境等の問題に着目し、一つの地域という範囲を規定して社会現象としての自殺率を客観的に把握するため、「家庭問題」、「病苦」等の個人的な要因は数量化できず、自殺率とは直接関係しない要因となる。以上のように、自殺率が地域的性格によって「高・低」が規定されることから、分析のための指標として「人口学的指標」、「経済的指標」、「事故及び犯罪関係指標」、「疾病及び死亡原因別指標」等計35個の要因を地域社会を構成する変量(要因)と考えた。 本年は、北海道、青森県、岩手県、秋田県、山形県、新潟県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県の各都道県を対象に自殺率及び数量化された統計資料を収集し、大型計算機(パソコンからインターネットにより)による解析を進めている。計算機への入力までの準備に多くの時間を要し、現在岩手県、山形県、新潟県の解析を終えた段階である。 結果の一部を示すと、この3県(いづれも自殺の高率県)の市町村別自殺率は、いづれも中核都市と呼ばれる各県の中心地やこれに準じる市では、高自殺率を示す県の中にあっても相対的に低く、また中心都市から遠く遠隔地へ向かうにしたがい自殺率は高くなる傾向がある。年次(本研究は、昭和60年、平成2年、平成7年で検討している)により多少異なるが、山間地域の市町村に自殺率が高いという分布傾向を示している。大型計算機は東京大学大型計算センターを利用している。
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