研究概要 |
阪神淡路大震災の震源地である北淡町における2ヵ年にわたる現地調査結果,北淡町の地域アイデンティティには2つの異なる指向性が含まれていた。すなわち,土地に対するこだわり(愛着や財産性)やそこで営まれてきた人間関係を指向する場合(過去指向)と,地域開発や町並の整備など職住環境の充実を指向する場合(未来指向)である。北淡町における地域アイデンティティには,2つの指向性の強弱から構成される4つのタイプが存在することが確認された。 タイプ(1)過去指向・未来指向とも強い型 タイプ(2)過去指向が強く,未来指向が弱い型 タイプ(3)過去指向が弱く,未来指向が強い型タイプ (4)過去指向・未来指向とも弱い型 1998年度実施の大量調査の結果,北淡町ではタイプ(1)がいちばん多いことがわかった。タイプ(1)についで多かったのはタイプ(3)で,以下タイプ(2),タイプ(4)の順であった。 現地調査の諸データは,震災によって生じた非日常状況が日常状況に移行しつつあることを示していた。つまり,震災はまだ過去の出来事としてとらえることはできないが,生活の場面では確実に日常性の再生の兆しが現れているということである。 しかしながら北淡町の人びとが存在拘束性のほかに,外圧的拘束性(被災地にありながら真に住民の生活を見据えた施策がなされず,多くの人びとに,そのままでいることを余儀なくしている状況)の下にあることを想うとき,現状は,(1)時間の流れという,新しいアイデンティティを促進する要因と,(2)空間の復元=区画整理という,新しいアイデンティティを阻害する要因が,(3)視座という,一方では共通のアイデンティティをつくる条件として熟しつつあるが,他方,利害や状況によって逆のはたらきを促す場合もある両義的要因を挟んで相反する流れの中にあり,北淡町の人びとは3つの岐路に立たされているといえる。
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