3年間にわたる本研究では、エジプト、シリアの経済発展の実状と、伝統経済が占める地位、役割の分析を主眼としている。タイトルに掲げられた〈経済発展〉は、両者の関係を論する以前にそれぞれの固有な問題の検討を要するが、具体的には(1)当該地域における伝統経済の特殊性の解明、(2)その現状の確認、(3)フォーマル・セクターとの関係、(4)それが経済発展に占める位置と意義の確認、というプロセスを経て行われた。今年度は最終年度として、研究成果を深め、広げる意味で以下のような論文を執筆した。 職能組合の分析として、『中世職能組合の比較研究序論-ヨーロッパとイスラーム世界の場合』という基本的な分析を発展させて、『イスラーム経済の自己組織性-社会諸集団(タワーイフ)と国家-』を発表した。これは権力が上下に貫通していたとする、在来の謝った見解にたいする有力な反論である。ここではギルドの自律性対ヒルファの市場性の対比が新たに明らかにされたが、後者と国家の関係を特異な社会関係論で捉える分析法は、イスラーム世界の構造性を明確にする点で長い射程をもつものである。 また経済発展については、エジプトに関連して『経済の自由化と伝統経済の位置-中東和平の試みと経済発展のかたち-』を承けて、『地域開発の現状と問題点-エジプト経済開放政策のその後-』を、シリアについては『現代シリアの経済開発と政治・経済』、『現代シリアにおける開発経済の現状』を発表した。 また『イスラーム世界の女性とアンペイド・ワーク-脱ペイメントの経済システム』、『商いの構造-異文化の社会・経済タクソノミー-』、『商いの構造-イスラーム経済と石田梅巖-』を執筆し、W.アッ=ズハイリーの『イスラームの商法諸規定』のアラビア語からの素訳を完成した。
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