本研究は、企業志向をめぐってベトナム、中国、日本の従業員意識がどのように異なり、どのように重なるかを検討したものである。近年におけるベトナム、中国の経済的発展はめざましいものがある。しかし、このような発展がどのような従業員意識と結びついているかの研究はほとんどなかった。本研究はこの点に鑑み、質問紙調査によりこの点の三国間比較を試みた。資料として使用するデータは、1990年の中国調査(天津)、1995年の中国調査(工会調査)、1996年のベトナム調査、1997年の日本地域調査、1997年の日本労働組合調査のものである。 結果を要約的に言うと、中国の企業労働者は「企業帰属感」については両調査とも高い値を示す一方、「経営計画・生産過程への積極的関与意識」については高い層ときわめて低い層に二極分化する傾向がみられた。ベトナムでは「企業帰属感」は中国よりも低く、反対に「経営・生産過程への積極的関与意識」に関しては中国よりも高かった。日本では「企業帰属感」に関してはいわゆる人並み志向が強く、他方、「経営・生産過程への積極的関与意識」については批判的参加とも呼べる項目への共感がみられた。また、この傾向は、労働組合調査でも同様であった。以上の点は、企業別、規模別、職位別、性別などの要因の影響も関与していると見られるが、他方社会主義としての経験の長さ、および資本主義的市場経済化導入の時期が大きな影響を与えていると考えられる。さらに、このデータをもとに社会主義と産業化の連関について企業意識から分析していきたい。
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