居住空間の問題を解決する市民活動や、民間非営利の事業組織をとりあげ、事例調査を中心に理論的検討を行った。阪神大震災後の復興計画の事例からまちづくりの専門性に関わる問題をとりあげ、ロンドンとローマ、モデナでの民間非営利のまちづくり団体での専門家集団の機能に注目し、比較研究を行った。以下、その具体的研究成果である。1.阪神大震災後、神戸の都市再生の手段となった区画整理事業は、多くの問題をもたらした。神戸森南地区の反対運動の経緯を追う中から、行政と住民をつなぐ「まちづくり協議会」やまちづくりプランナーの限界が明らかになった。そして、まちづくりに関わる専門家の必要が期待されているにもかかわらず、居住空間を形成する集団として充分機能していない問題が指摘できた。都市の法や制度の改革には、専門家の働きかけが必要不可欠である。わが国ではこうした都市居住空間をめぐる専門家や、専門家集団の機能について、明確ではない。市民の生活の中から都市居住のあり方を提案し、それを具体的計画にまとめ、行政と協力しながら実現に導く、専門家の必要である。2.市民的専門性の概念について、シュッツやイリイチなど、これまでの理論研究を手がかりに検討した。制度化された資格にもとづく専門職ではなく、「ローカル・ノレッジ」や経験知にもとづく専門職の理論化を試みた。3.1970年代からコミュニティ事業を展開しているロンドンのコイン・ストリート地区とノース・ケンジントン地区の事例、イタリアのモデナ市の土地経営をめぐる官民のコラボレーション、ローマ市のフトューラ地区の社会的コーポラティヴ事業の1990年代の活動を調査。民間非営利まちづくりでの専門職のあり方を中心にヒアリングし、市民的専門家と定義できる専門職層の存在が明らかになった。
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