研究の目的は、居住空間論の展開に必要となる、住民と自治体、民間企業、そして非営利の専門家集団の役割を明確にし、それら諸セクターの協力体制について明らかにすることであった。とくに民間非営利組織の機能や役割を欧米諸国の事例研究から分析し、わが国の芽生えつつある民間非営利組織の活動を促すための諸条件について考察することであった。研究計画にそって得られた知見は以下のとおりである。 平成9年度は、居住空間論の理論化に焦点をあて、都市計画法や建築基準法が、1990年代のグローバル経済の進展とともに機能せず、都市の居住空間が悪化していることを明らかにした。事例として、三重県桑名市の地方都市の衰退をとりあげた。そして、居住空間を獲得するために必要な条件を探るために、都市計画法や制度を変革する住民や市民の運動や福祉の充実を求める運動をとりあげた。世田谷区や掛川市の住民参加、阪神地区の住民参加型の在宅福祉サービス、阪神大震災後の神戸で展開したボランティア活動、震災復興区画整理事業をめぐるまちづくり運動を事例とした。そこで得られた知見は、居住空間を確保する市民の権利意識は高いものの、運動組織として持続させる制度的保証がないこと、専門家の支援体制が組織的でないことなどがあった。 平成10年度は、ロンドンの居住空間を回復する民間非営利組織の運動を調査した。民間非営利組織の事業が資本の論理と充分対抗できる可能性をもっていること、そのためには民間非営利組織が行政と対等な関係で協力体制を築いていることを明らかにした。
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