本年度は、日米の学位制度について、その制度の構造及び近年の大学院改革との関係で改革動向を探ることに中心を置いた。その結果、得られた知見の代表的なものは、次のとおりである。なお、アンケート調査に基づく両国の学位制度運用の比較分析は次年度に行われる。 1.アメリカでは、修士号は研究者の準備のためのものではなく、知識の専門分野における上級の教育や訓練を施すことにねらいが置かれ、多くは雇用に必要な唯一の専門学位となっている。わが国の場合、一部工学等を除いて、研究者としての基礎的能力を涵養することを目的とする場合がかなり多い。 2.また、多くの場合、修士号はコースワークに重点が置かれ、研究セミナーや時には総合試験も課されない時がある。これに対して、ph.D.は、むしろ研究上の業績で測定され、他の博士号が応用的・技術的研究であるのに対し、基礎研究のプログラムとなっている。わが国では、修士号は論文を課すところが圧倒的で、また修士と博士の両課程を別個のものと区別している場合よりむしろ実質的な一貫教育を実施しているケースが多い。 3.このほか、アメリカでは、二重学位の授与を認めるところが多く、他方ではph.D.コースに登録した学生の中で、その能力や適正が不十分な場合には、修士課程に登録を変更し、修士号を得るという「復活の道」も認められている。 4.近年、アメリカでは博士学位取得までの平均年数が全体的に上昇している。わが国では、最近の大学院改革において、人文・社会科学系においても課程博士授与の努力がみられるが、標準修業年限経過後も課程博士論文申請の期間を設けている大学が少なくなく、おおむね4年未満であるが、中にはそれ以上を認めるところもある。
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