本研究は、フランス、イギリス、ドイツの三国における「資格」の社会的効用と教育システムの特質との関連構造を明らかにし、比較検討を行うことを目的としており、今年度は、昨年度明らかにしたイギリス・ドイツの資格制度の全体像とその社会的効用、ならびにフランスにおける資格制度をめぐる研究動向をふまえて、三国の比較検討を行った。その結果、以下の知見を得た。 1. フランスとドイツの職業教育に関する違いは3点ある。一つは、フランスの職業教育が国家統制型であるのに対してドイツのそれは市場経済指向であること。第二は、修了資格試験の内容が、フランスでは一般教科を含みそのために不合格者が多く出るのに対し、ドイツは職業実践中心であること。第三は、職業教育と資格の関連性に関してであり、フランスでは修了した学校種が職業教育のレベルを規定し、これが職業教育修了後に取得できる資格水準を決定づけるのに対し、ドイツでは、職業訓練を受ける際に学校教育水準は一切問われない。フランスの職業訓練は普通教育制度のコロラリーとして位置付き、前者が後者に従属しているが、ドイツでは両者は明確に分離されており、ここから能力評価基準の多元性の必然性が生まれている。 2. フランスの労働者養成と職業訓練の構造上の特色が、社会的競争の場を学校教育の中に一元化させる最大の要因となっている。一方ドイツは、中等教育内部の複線化、職業訓練制度内部の職種毎の競争の存在など、競争がすでに多元化しており、このことがメリトクラシー抑制の要因となっている。 3. ドイツ、イギリスとも中位水準職種をめぐる競争の存在が社会全体の競争の多元的構造を生み出しており、この点が日本、フランスと大きく異なっている。
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