平成9年度の研究によって得られた知見は以下の通りである。 1 欧州連合(EU)では、未だヨーロッパ市民概念を明確に打ち出していないが、ヨーロッパ市民としての意識の形成には、欧州連合加盟各国の学校で共通の「ヨーロッパの歴史」を教えることが重要だと考えている。 2 EC委員会文化総局の補助を受けて、全加盟国の高校用教科書のモデルとしてのヨーロッパの通史(『ヨーロッパの歴史』)がフレデリック・ドル-シェ等によって1992年に刊行され、それが加盟各国の言語に翻訳されている。 3 イギリスでは、一方では学校教育の中にヨーロッパ的次元を取り入れるためのガイドラインを発行しているが、他方では政治家、特に保守党議員の間で、ヨーロッパ統合の中でイギリス文化が呑み込まれて消滅してしまうのではないかとの懸念が表明されている。そのため、あらためてイギリス文化、イギリス市民、ブリティッシュ・アイデンティティが議論されるようになっている。 4 ロンドン大学のアンディ・グリーン博士は、1979年以来4期に及ぶサッチャー政権の誕生は、イングランド、ウェールズ、スコットランド及び北部アイルランドからなる連合王国(イギリス)の中でのイングランド文化の勝利を意味しているとみている。 5 1988年のナショナル・カリキュラム導入時に教育大臣であったケネス・ベイカ-は、同カリキュラムによる歴史教育によって、イギリス人のナショナル・アイデンティティが形成されると主張した。
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