平成10年度の研究によって得られた知見は以下の通りである。 1 欧州連合(EU)では、ヨーロッパ市民としての意識の形成を重視してはいるが、いまのところ、まだEU市民としての法的規定の方が先行しており、文化的概念規定は明確にされていない。法的には、欧州連合市民とは、「EU構成国の国籍を有する人すべて」(第2部 第8条)とされている。 2 EU市民としての市民権が法的に規定されることを通して、同市民と同市民でない人(非市民)との区別が生じてきている。 3 統一的なヨーロッパ市民概念の形成がはかられる一方で、他方では地域の「文化的多様性」が見直され、文化的差異が強調されるようになってきている。 4 マルチ・ナショナル国家であるイギリスでは、イングランド人、スコットランド人、ウエールズ人、およびアイルランド人であるとともに英国人としてのアイデンティティが求められているが、これにヨーロッパ市民としてアイデンティティがつけ加えられることになる。 5 イギリスでは国民の間にヨーロッパ市民という意識を形成するために学校教育の中にヨーロッパ的次元(ユーロピアン・ダイメンジョン)をとりいれつつある。その点については、イングランドよりもスコットランドの方がより積極的に取り組んでいる。 6 英国比較国際教育学会およびロンドン大学、ケンブリッジ大学の研究者達との意見交流をしたところイギリスの教育関係者達は、ヨーロッパ的次元の教育は、特定の教科よりも様々な強化を通して教育することの方を望んでいることが判明した。
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