本研究では、女性の社会的地位に関する探索的研究として成人151名を対象とした質問紙調査を行っている。ジェンダー視点から社会的地位概念を再検討することが我々の最終的な目的であり、本研究はそのための基礎的な作業にあたる。 女性が階層・階級研究の対象とされるとともに、社会的地位の測定単位に関する議論が顕在化してきた。このような議論は日本では主観的な階層帰属意識を下敷きに展開され、世帯単位の社会的地位概念(分有モデル)は女性に独特のものと考えられてきた。本研究ではまず最初に、第三者による社会的地位評価を通じて社会的地位の測定問題に探索的なアプローチを試み、以下のような興味深い知見を得た。第一に、社会的地位の評価に用いられる原則(独立、分有)は、評価者の性別によってあらかじめ決まっているのではなく、評価対象の属性(特にジェンダー)によって異なっているということが示唆された。第二に、夫の社会的地位評価に妻の存在が影響を及ぼしていると考えられる事例が見いだされ、男性においても世帯単位の社会的地位概念が有効である場合があることが示された。 また、女性の社会的地位の評価にはキャリアパターンに関する価値判断が深く関わると考えられることから、女性の生き方モデルの評価を通じ人々の志向を探ろうと試みた。その結果、(1)人々の志向が単純な「仕事か家庭か」という二分法的視点だけでは捉えられないこと、(2)男性では職業が、女性では年齢が、志向の違いに関わる要素と考えられることが明らかになった。 最後に、「転職」に着目し、職業的地位の構築過程の一端を解明しようと試みた。量的な解析においては有意な結果は出なかったが、(1)転職における人的ネットワークが男女共に重要であること、(2)しかし転職パターンに関しては女性特有の事情を勘案すべきことという示唆を得ることができた。
|