研究概要 |
東南アジアの中でもイスラームがマジョリティを占めるマレーシアとインドネシアの事例の比較考察を行った。この両地域においてイスラーム復興運動が教育制度改革に与えた影響として次のような点を指摘できる。世界的なイスラーム復興に共鳴して,マレーシアでもイスラーム学校に対する進学希望が高まった。公立の宗教中等学校だけではニーズにこたえられなくなり,民間および州立のイスラーム中等学校および中等後教育機関が多く新設されてきた。他方,一般学校においてもカリキュラム改革を通してイスラーム的価値の普遍化が進められている。非イスラーム教徒に必修となった道徳教育に盛り込まれた16の純粋な価値もイスラームの価値を反映している。また教育省によって行われる全国統一試験にもイスラーム関係教科が正式に位置づけられてきた。インドネシアでは9年制義務教育の実現が大きな課題である。イスラーム学校も一般教科の割合が増え,イスラーム的な性格を持つ一般学校と定義され,一般学校とイスラーム学校の統合が進められてきた。他方,経済危機によって一般学校の退学者が増え,イスラーム学校の就学者の占める比率が一層高まってきた。また,イスラームの専門職養成のためのイスラーム宗教大学に接続することを意図して,特に宗教に重点を置いた宗教イスラーム高校が特設されてきた。一方,イスラーム宗教大学のスタッフを欧米の大学院に留学させ,学問方法論を学ばせ,イスラームの知的改革を推進しようとしている。いずれの国においても「イスラームの主流化」現象が進む中で,イスラームアイデンティティを強めたムスリム(イスラーム教徒)が教育改革においても大きな影響力を与えるようになった
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