先進諸国は、国・連邦・地方の各レベルにおける民族・人種(エスニック)問題に直面している。イギリスなどでは、宗主国問題に起因する少数派出身移民の保障体制が課題である。滞在に際して、当該国文化への統合と自前集団の文化保持との葛藤が存在する。日本では、朝鮮半島出身の後世代集団の文化的社会的葛藤は未解決である。さらに、近年アジアなどから渡日する外国籍の人びとは、前掲集団も含めて、中心圏近隣都市に増加・集住傾向にあり、受け入れ保障が課題である。一方、「制限的」移民を進めるカナダでは、「可視的」移民の増加によって、自前の文化保持とカナダへの文化統合は両義的であり、平等化も未克服である。社会的な大転換の現段階にあって、就労、生活、社会保障、教育分野など、少数派社会集団における顕著な貧困の再生産・増加がみられ、格差は是正されていない。多文化主義政策はグローバルな課題であり、教育分野でも、多文化教育方針の採用は各種施設・機関で不可避である。 昨年度のエスニック集団調査に基づき、本年度、カナダのケベック州で研究計画のレヴューとともに、少数派集団に対する教育の現状に関する資料収集を試みた。ケベック州では、60年代の「静かな革命」による調和的統合、80年代半ばの多文化統合、90年代中葉以降の普遍的な異文化間「市民性」協同教育へと進展し、仏・英公用語の二重言語政策の枠組みのなかで多文化教育は浸透しつつある。促進学級、言語補償計画、伝統言語教育計画、ステレオタイプの教材の解消、大学での多文化教員養成、現職教育、積極差別解消政策などのサーヴィスも措置されているが、政策と実施との間隙は十全に埋められてはいない。学級・学校経営、学力、不適応など、看過できない問題もあり、カナダ、ケベック、自前集団文化に関するアイデンティティ形成のあり方が模索されている。
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