イギリスやカナダでは、教育保障の低下が貧困・格差の是正にかげりを生んでいる。イギリスでは、外国人保護を抑制する入国管理・外国人保護法(2000年施行)により、保護を求める外国人の自助努力の奨励、低支給、分散化が施策された。対エスニック援助は、一昨年に教育雇用省管轄を離れ、昨年1月からエスニック少数者集団・旅行者達成補助部から学校への直接補助となった。多文化教育は、ロレンス君事件(1993年)に窺えるように、差別が障碍である。貧困、低収入、失業、居住・生活環境、低学力・学歴など、教育による改善は進まず、現場教師のとまどいもある。実態が計量的に解明され、多様性の教育施策・内容などの達成水準が設定され、共生化への克服策として、高志向の教育環境、文化・風土、親の参加、エスニック意見聴取などが重視されている。コヴェントリーでは、2000年から英語不使用の難民を受け入れ、教育援助が組まれた。中等教育用言語編成、可能な子弟の場合の統合化などをはかっているが、各難民子弟の厳然たる生い立ち、生育歴、生活状況にみあう教育計画を立案し、取り組みを模索している。一方、カナダは多文化=共生社会を進めてきた。住民の約8割が仏語系であるケベックでは、仏語憲章(1977年)、私教育関連法(1990年)などを制定し、仏・英語両系学校委員会の整備、義務教育の充実、親の教育参加、生涯教育など、教育法(1997〜2000年)で学校管理運営を規定した。言語、教育、雇用などの機会均等化が発展的に提起され、仏・英語系住民、他国籍出身・先住者集団などの多文化主義教育を展開している。帰属出身集団に規定される貧困や社会的閉塞性が実在し、1997年頃から、複合的な異文化間共存の統合を目指す「市民性」教育が提唱・実施された。市民性教育は、学校・家庭・地域を貫く「多様性」を鍵概念とし、差異に基づくアイデンティティとエンパワーメントを強調している。
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