研究概要 |
研究代表者の渡邊は,いじめ問題の克服の方途として,ハ-バーマスのコミュニケーション的行為理論に基づく道徳教育を提唱している。 今年度は,いじめ克服をテーマとする「道徳の時間」の授業実践モデルを試案化し,モデルの妥当性を検討するために,小学校2・4・6年生を対象に,実験授業を実施した。 この授業モデルの従来の道徳教育にみられない特色は,ハ-バーマスの提唱するディスクルス倫理学に基づく実践的なディスクルス,すなわち,児童たちの主体的かつ合理的な討議方法を主軸とする授業展開にある。 今回,小学生という発達段階を考慮し,劇化の手法を取り入れ,授業実践が行なわれた。その結果,従来の教師主導の心情的・価値伝達的な道徳教育で見られるような受身的な児童の学習活動ではなく,児童たちの活発な主体的討議による能動的な授業展開がなされた。児童の価値の内面化を深化させるという点で,この授業の教育効果は高いと判断される。 また共同研究者の八並は,不登校生徒への教師の援助・指導モデルとして,協働(collaboration)的生徒指導体制モデルを提唱し,そのモデルの教育的効果の検証を行っている。本年度は,小規模中学校における不登校生徒に対する協働的生徒指導体制の導入・定着プロセスにおける効果分析からを行なっている。 教師間の共通理解や連携の低い小規模中学校の教師組織に,意図的介入を行ない,教職員・外部専門機関のスクールカウンセラ-との協働体制を構築し,その変革過程を教師間のコミュニケーション分析から行なった。 その結果,明らかに変革以前と以後において,教職員の不登校生徒に関する共通理解や連携,集団の創造的雰囲気,信頼的,相互扶助的な人間関係の深まりがみられた。また,援助・指導対象であった不登校生徒の登校という教育効果がみられた。
|