研究概要 |
今年度渡邉は、いじめの原因論である関係性に焦点を置き、小学校5・6年生の児童と教師を対象に「いじめ」に関する意識調査ならびに道徳性の発達段階を測定する役割取得検査を実施した。その結果、第一に、児童たちの学級集団は均質ではなく、道徳性の発達段階にばらつきがあることが明らかとなった。すなわち、同一学級内に、自己中心性の高い児童と第三者の立場を理解できる相互主体性の高い児童の分布に偏りがあった。第二に、教師のいじめに関する意識調査からは、集団を重視する管理的生徒指導志向と個を重視する受容的生徒指導志向の教師が混在することが明らかとなった。前者の教師は、児童とのコミュニケーションが教師から児童へと一方向的であるのに対して、後者の教師は双方向的であるのが特徴である。以上の二点から、いじめ問題の克服視点として、ハーバーマスが指摘したコミュニケーションの相互主体化に加えて、児童の道徳的発達段階ならびに教師の指導性の差異調整がテーマとなることが明らかとなった。それらを視野に入れると、学校内だけの相互主体的モデルでは対応に限界がある。そこで、保護者や地域の主体的なコミットメントによるコミュニティアプローチを策定し、いじめ克服実践モデルとして、公立小学校での実践を試みた。 また共同研究者の八並は,アメリカ学校教育における組織開発(OD:Organization Develop-ment)を応用し、公立中学校における不登校生徒への教師集団の変容過程を分析した。その結果、生徒指導主事・教育相談経験を有する現職教師をコンサルタントとしたアクションリサーチによる組織変革は、短期間で十分な効果をもっており、不登校生徒への援助・指導方法として有効であることが明らかとなった。また、不登校生徒への協働的な生徒指導体制モデルを、授業づくり・教師づくり・学校づくりの三要素から構成した。
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