研究概要 |
本研究は、1870〜90年代に進行したフランス「知識界」の再編成を、「知識界」の形態的変容ならびにイデオロギー的変容の側面から考察し、前者については、自由業・知的職業就業者および著作者の統計的考察に基づき、1,「知識界」の量的規模の急速な拡大、2,文人・ジャーナリスト・詩人・教授層の台頭に伴う「知識界」の中核を構成する社会職業的範疇の交代および「知識界」構成分子間における相克・分裂を指摘し、この時期における「知識界」が形態的変容に伴う成長期の危機にあったこと、および、大学人がこの「知識界」の形態的変容の一翼を担ったことを明らかにした。後者については、1,18世紀以降における代表的文化生産者像を考察し、最早これらが、この時期における「知識界」全体にとって支配的な社会的表象としての役割を果たしえず、「知識界」の新たな構造化の完結には、新たな文化生産者の理想像が不可欠であったこと、2,「科学者」という社会的表象の考察を通じて、(1),「科学者」が「真理」の探究に伴う特殊な象徴資本の保有者と見なされ、またそれゆえに、科学の世界以外における政治的社会的権威をも賦与されるにいたったこと、(2),「科学者」が文化的正統性の担い手として社会的に認識され、国民的崇拝の対象として定着したこと、(3),「科学者」が、大学人のみならず「知識界」の重要な一翼を担う作家にとっても文化的準拠モデルとなったこと、を指摘することにより、この時期に、「科学者」が「知識界」における新たな支配的な社会的表象として登場したことを明らかにした。 以上により、「知識界」の新たな構造化に際して、大学人がその量的規模の拡大を通じて「知識界」の形態的変容の一翼を担ったのみならず、とくに「科学者」という社会的表象の析出を通じて、「知識界」のイデオロギー的変容に決定的役割を果たした(1878〜95年)ことを明らかにした。
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