言語習得前の最重度の聴覚障害児のうち早期から手話(身振り)を導入して概念が先行して導入される意味概念先行群の児童とことばの形が先行して導入される聴覚口話法により指導を受けた音形先行群の児童を対象として語彙、話しことばおよび聴能の評価を行った。その結果、1、語彙においては、意味概念先行群は通常の幼児と同様な言語発達を示し、幅広い語彙の使用が認められた。音形先行群においては、語彙の量、質共に意味概念先行群よりも限定された使用がなされていた。しかし、同じ音形先行群でも、人工内耳装用児は、聴力回復術後2年後位から語彙量、質面での急激な増加が認められた。2、話しことばにおいては、1)音響・音声学的側面からは明瞭度における個人差が大きかった。韻律性についても、同じ結果が得られた。しかし、周波数圧縮変換型補聴器装用群では韻律性の著しい改善が、また人工内耳装用群では韻律性、明瞭度共に改善された児童が多かった。2)形態学的側面からは、手指群の方が、文の長さにおいては2〜3文節長く、構文の複雑さにおいても3階層から4階層文の使用が認められなど、手指使用群での日本語の形態習得上へ効果が大きいことが分かった。しかし、コミュニケーション場面では、母親が子どもの手指を読みとることができず、意味概念を拡充することができていないことが明らかとなった。こうしたことが、手指利用群の日本語習得上のつまずきとなると考えられた。3、聴能においては、聴能のレベル、環境音受聴検査の成績、話しことばの受聴検査においては両群間に著しい差は認められなかったが、人工内耳装用児および周波数圧縮型補聴器装用児では、聴能、環境音、話しことばの受聴の改善だけでなく、直後フィードバックや自己音声へのフィードバックが容易になされていた。こうしたことから、情報入力が確実になされることが何よりも大切であると考えられた。
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