研究概要 |
言語習得前の最重度の聴覚障害児のうち早期から手話を導入して「概念形成」をはかってきた手話導入群と音や口形による「ことばの形」が先行して導入された聴覚口話群において、意味概念構造の拡がりが話しことばの受容と習得にもたらす効果を検討し、以下の結果を得た。 1, 意味ネットワークの複雑さにおける差は、読書力と習得語彙の難しさの2側面からの影響を受ける。習得の容易な単語では言語力の直接の差はないが、習得の難しい単語の場合には著しい差が認められた。すなわち、読書力低得点群ではネットワークの広がりが貧弱で、一意的であった。語用論的にみて、適切な使用は減少傾向にあると推察された。 2, 手指導入群の聴覚の評価は、JANT(日本語数唱検査)や今回再作成したJESP(幼児用日本語知覚検査)と環境音受聴検査を用いて行った。その結果、3つの検査の独自性が確認されたと共に、個人内の聴覚活用の様相を明確にできた。手指利用群においても一定程度の聴取能力を示し、聴覚口話群との明確な質的差異は認められなかった。また、言語能力の向上に伴い、意味概念ネットワークが複雑化するにつれ、音韻構造が明確になる傾向が明らかとなった。それにつれて、発音の明瞭度も改善した。併せて、聴覚的な能力も向上する兆候が認められた。これは、聴覚および視覚的フィードバックが確立するためと考えられた。 こうしたことから、手指による概念構造の確立は、コミュニケーションの成立や聴覚学習における聴覚パターンや音韻の学習に効果的であることが推察される。また、人工内耳によって聴覚を回復した人工内耳装用児においても、手指の併用効果の著しい症例が認められ、意味概念は聴覚学習上にも極めて大きな影響をもたらしていることが明らかとなった。
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