本研究は、生涯学習が提唱されて10年以上たった現在の市町村の生涯学習の推進体制と社会教育の組織体制の変化に伴う社会教育主事の専門職性の職務内容を実証的に究明しようとするものである。調査対象は、本研究を社会教育主事講習の講座内容に反映させるねらいもあり、講習受講者を送り出している長崎県、佐賀県、福岡県、大分県、沖縄県からの5県で、市町村別では市が51(全体で58、以下同じ)、町が178(224)、村が40(58)で、334市町村に対する回収率は80.5%であった。 調査内容は、四つの視点から行った。(1)生涯学習の整備状況、(2)教育委員会における社会教育職員の職務、(3)生涯学習計画の実施段階における職務分掌の変化、(4)社会教育職務内容と団体や社会教育施設との関わり等について明らかにした。 研究の成果としては、(1)生涯学習の市町村別整備状況では、全体で49%が改組されておらず、市町村の順に設置状況は少ない。(2)社会教育職員の専門職としての配置は少なく、市段階より町村段階における教育委員会組織の規模と相関し、職務内容も小人数で多くを受け持つことになっているし、社会教育の独自性は希薄になる。(3)生涯学習への改組が49%されていないために、生涯学習に関する職務は係や担当者によってなされており、社会教育職員になっている。したがって生涯学習の他行政との連携・協力、さらには社会教育の独自の分野として生涯学習が認識されていることが少なくなく、生涯学習事業も教育委員会事業となっていることが多い。(4)施設や団体についての職務分掌としては、地域団体の衰退に伴う関係は従来の関係から余り変化しておらず、社会教育関係団体との関係での職務は減っていない。また社会教育施設での職務内容は多く、他では保険・福祉、高齢者関連の施設、学校との関わりが多くなっている。 全体として生涯学習の市町村段階の推進状況は、社会教育の職務内容を通してみる限り急速な変化として捉えることはできないし、逆に地方分権や規制緩和、地方行革によって職員配置や職務内容が変化させられている状況が深刻な課題として捉えられた。
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