1. 本年は計画の根幹部分の作業を実施し、成果を邦語・ロシア語・英語で発表した。(a)主に帝政末期と内戦期、(b)副次的に1990年代を対象にした。年度前半にモスクワで調査を、後半にその分析・考察を行なった。 2. (a)については、第1に、帝政末期のモスクワ学区の幼稚園の保育内容を、その設置認可申請書から明らかにした。1804年に創設され、モスクワ県など11県からなる同学区は、帝政ロシア、ロシア共和国、ソ連邦、そして現ロシア連邦の中心部である。ここで1890〜1917年に設立された200弱の幼稚園の保育内容を、公文書館の手書き資料から明らかにした作業は、ロシア人を含め初めてものであり、本テーマの出発部分の解明につながる。 第2に、ソビエト期最初の保育関係者の集まりである第1回全ロシア就学前教育大会(1919年)の論議を、一次資料である議事録により分析した結果をロシア語で発表した。内戦が激化した時期に40県から568名の関係者が集い、乳幼児の誕生・生存・発達の問題を検討した大会を分析し、今世紀初頭の保育界の基本的動向が抽出できた。 第3に、同時期のヴャートカ州の保育史を、現地の公文書館資料から明らかにし、国際学会で発表した。 以上の研究には、ロシア連邦教育科学アカデミー教育学研究所、モスクワ国立教育大学、ヴャートカ国立教育大学などの研究者から受けたレビューが役立っている。 3. (b)については、育児支援の主たる担い手である保育(関係)者の育成を担う教育大学の就学前教育学部(日本の教育学部幼児教育課程に該当)の現状を、保育実習に焦点をあて検討した。対象は、これまでしばしば報告されてきたモスクワやサンクトペテルブルクの大学でなく、地方の一事例であるキーロフ市の教育大学を選択した。 4. 関連して、報告者の10年来の調査をもとに、ロシアの育児・保育に関するロシア語・英語などの公刊文献(雑誌論文と新聞をのぞく)リストを作成した。家族・労働・女性・福祉・医療・生活などの隣接分野にできるだけ目配りし、2500点ほどを収録した。同リストもまたロシア人を含めこれまで誰も公刊していないものである。
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