1 明治期における不敬事件の研究の後を承けて、大正期に発生した不敬事件の事例をできるだけ多数蒐集し、明治期との比較に留意しつつ、大正期における不敬事件の特質と歴史的意味を明らかにすることが本研究の目的である。そのため、刑法に規定する不敬罪をも含みながら、むしろ、思想的・文化的・政治的な意味での不敬事件を主たる対象に調査を進めた結果、本年度において35件の不敬事件リストを作成することができた。そのリストは、次のような諸事件からなっている。 (1)大正4年山口県柳井尋常高等小学校の御真影焼却事件、大正12年新潟県西頸城郡小学校の御真影・教育勅語謄本焼失事件など、学校における御真影・教育勅語の紛失・盗難・焼失・隠匿などの事件多数。 (2)大正4年萩野由之東京帝国大学教授の不敬論文事件、大正15年井上哲次郎の三種の神器不敬事件など、学問研究・言論弾圧事件。 (3)大正元年福岡県直方高等小学校における聖書事件、同4年富山中学校生徒の神社参拝欠席事件など、キリスト教徒への迫害事件。 (4)大正10年第一次大本教不敬事件などの宗教弾圧事件。 (5)大正12年朴烈・金子文子の天皇・皇太子暗殺計画事件、同年難波大助の虎ノ門事件などの大逆罪事件。 (6)大正14年京都学連事件という治安維持法違反事件。 2 次年度においては、引き続き未知の事件の発掘に努めるとともに、上記個別の事件についての事例研究を深める予定である。
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