大正期に発生した不敬事件の事例をできるだけ多数蒐集し、大正期におけるその特質と歴史的意味を明らかにすることが本研究の目的である。そのため刑法に規定する不敬罪のほか、思想的・文化的・政治的な意味での不敬事件も含めて調査を進めた結果、平成9・10年度の研究期間において、50件の不敬事件をリストアップすることができた。そのリストは次のような類型の事件からなっている。 (1) 大正4年山口県柳井小学校の御真影焼却事件、同12年新潟県西頸城郡小学校の御真影 ・教育勅語謄本焼失事件など、学校における御真影・教育勅語謄本の紛失・盗難・焼失 ・隠匿などの事件多数。 (2) 大正4年萩野由之東京帝国大学教授の不敬論文事件、同15年井上哲次郎の三種の神器不敬事件など、学問研究・言論弾圧事件。 (3) 大正元年福岡県直方高等小学校における聖書事件、同4年富山中学校生徒の神社参拝欠席事件など、キリスト教徒への迫害事件。 (4) 大正10年第1次大本教不敬事件などの宗教弾圧事件。 (5) 大正12年朴烈・金子文子の天皇・皇太子暗殺計画事件、同年難波大助の虎ノ門事件などの大逆罪事件。 (6) 大正14年京都学連事件などの治安維持法違反事件、社会主義弾圧事件。
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