日本古来の伝統芸能教育における指導法から、今日の社会の教育に寄与しうる何かを提示しようとするのが、本研究の目的であった。初めの計画は広範な領域に亘るものであったが、やや焦点を絞ることとした。 二世西川鯉三郎の芸道教育にみられる伝統芸能の教え方というものは、今日の学校教育における論理的な知育中心のものとは全く異なった形態のものである。言葉を以て教えるのではなく、芸を体から体へ辛抱強く移していくという方法である。芸は学ぶものにおいては、人から懇切丁寧に手取り足取り噛み砕いて教えられるものではなく、見て覚え、師匠の生活や芸を取り巻く環境のすべてを本人自身が感じ取るものである。そのことによって芸が体に染み込んでいくのである。つまり感性の部分の教育であるといえるかもしれない。 「間」の重要性ということも、一曲の全体構成をもった踊りの中の状況に応じた振りの表現や、呼吸の仕方などを指す言葉である。そして伝統芸能は「型より入りて型より出る」といわれるが、やはり最終的には「踊りのこころ」を捉えることが要であり、伝承されるべき芸の内容もそれ以外のものではなかった。西川鯉三郎において、それが明らかとなったといえる。 「21世紀は感性の時代である」といわれる。伝統芸能を支援する社会体制を整えることも、重要であるといえよう。今日の「知性中心の教育」に対する「感性の教育」である伝統芸能とその指導法が、今後社会一般により広がり、学校教育等にも取り入れられることによって、情操豊かな人間を形成出来るのではないだろうか。 すなわち、人間形成という面と、日本の文化を守り新たに創造することの両面に、伝統芸能教育は今後寄与する可能性を十分持っていると思われる。
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