平成10年度は、進歩主義、改造主義、批判的教育学の比較考察を試み、四つの論文に纏めた。 第一の論文は、「チャイルズとブラメルド」(日本デューイ学会紀要39号、1998年6月)である。ここでは、ブラメルドとチャイルズが、民主的な教育的社会改造、ソーシャライズされた経済指向性の教育、インドクトリネーションの否定などの見解で共通しながらも、ブラメルドが計画された社会や未来の社会のブループリントを重視したのに対して、チャイルズは、これらに警戒的態度をとっていること等について明らかにした。 第二の論文は、「学校論--社会改造と関連して--」(杉浦宏編『日本の戦後教育とデューイ』(世界思想社、1998年11月)である。ここでは、日本の学校教育の課題となっている「生きる力」の育成にデューイの学校論が有益であること等を明らかにした。 第三の論文は、「批判的教育学と改造主義」(椙山女学園大学研究論集・社会科学篇・1999年3月)である。ここでは、社会改造主義とポストモダンの批判的教育学の両者が、民主主義のための市民教育に関心をもち、学校を支配への抵抗の場として位置づける立場を共通してとっていることを明らかにした。 第四の論文は、「チャイルズとデューイ」(日本デューイ学会紀要40号、1999年6月予定)である。ここでは、デューイの社会改造の飽育哲学を継承しているチャイルズが、教育における階級観、ニューディールの評価、第二次大戦後のソ連との関係、コミュニストの教育権に関して、デューイと見解を異にしたことを取り上げ、両者の立場の相違の理由を解明した。
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