本研究は、1進歩主義、改造主義の社会改造論の比較考察、2ポストモダンの批判的教育学による進歩主義、改造主義評価の考察、3日本の中央教育審議会答申(1996年)が提唱し日本教育の課題となっている「生きる力」の育成に進歩主義、改造主義、批判的教育学が示唆するものは何かの考察、を試み以下の諸点を解明した。 1 の考察ではデューイ及びブラメルドの社会改造論並びにそれらに対するチャイルズ、ボーダ、バークソンらの評価に焦点を当てて進歩主義及び改造主義の社会改造論を考察し、進歩主義と改造主義とはデューイ哲学に依拠して教育による民主的な社会改造をを唱え、インドクトリネーションを容認しないことでは共通しているが、社会改造の方向としてのブループリントの強調や国際的権威への国家主権の従属の見解に関して、両者は見解を異にしていることを明らかにした。 2 の考察では、批判的教育学と社会改造主義(進歩主義左派と改造主義)の比較検討によって、両者が、学校を社会的中立的機関ではなく支配への抵抗の場としてみなしたこと、知的発達と社会福祉理論の結合の必要を唱えたこと、教師を変革的知性人としてみなしたこと、相違の政治学に貢献していること等で共通していることを明らかにした。 3 の考察では、「生きる力」の育成を目指して総合学習の時間の設定、学習の場であると同時に生活の場としての学校、学校・家庭・地域社会の連携、環境教育の充実等を構想している日本教育が、進歩主義の作業教育、生活教育、改造主義の学校による社会改造、批判的教育学の個の異議申し立て、差異性容認のコミュニティ建設等の諸思想から学びうることを明らかにした。
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