我が国の障害児の就学指導にかかわる問題事例(福岡県)を引き続き観察し、問題構造を検討した。父母、学校関係者、教育行政関係者の間に、障害児教育に関して、その目的と目標、障害児一般のニーズおよび個々の子どものニーズ、障害児教育施設の現状と課題などについて共通の認識が成立しておらず、そのために相互の信頼関係の成立も困難になっている。しかし、学校関係者・教育行政関係者には、学校の現状や当該子どもに関する評価・判断について多くを父母に知られたくないと考える傾向がある。したがって、就学指導が適切に行われるためには、学校関係者・教育行政関係者の意識が大幅に改革されること、父母に学校情報・教育行政情報を知る権利と子どもの個人情報へのアクセス権が保障されることが必要であると考えられる。 また、障害児教育行政の実態を明らかにするために、主に奈良県教育委員会を対象にインタビュー調査した。同県を調査対象としたのは、特殊学級設置率が際立って高いことから、障害児教育に関して特段の方針があること、さらに就学指導にも他に見られない特徴があることが推測されたからである。しかし、これは障害児教育そのものに関する理念の現れというよりは、同県における人権教育の変数として上記のような特徴が現れていることが確認された。 また、本年度は研究成果を著書『生徒個人情報への権利に関する教育-米国のFERPA を中心に-』に収録し発表した。
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