本研究の目的は、現在先進諸国で進行中の教育改革の背景構造を解明することである。各国の改革は「市場化」という潮流の中にある。すなわち、市場化を押し進めている言説がどのような集団によって支持され、どのような利害関係を持つものなのかを解明する必要があるのである。我々はそのために日本とイギリスという二つの国を、先進諸国の典型事例として選んだ。そこから得られた知見は以下のように要約できる。 1、各国で進む教育改革の背景として、「グローバリズム」「ポストモダン」といったイデオロギー的価値が存在し、それらの価値は、政治的集団、特定の階層利害と密接に結びついている。 2、これまで社会学分析として使われてきた葛藤理論は、もはや現在の比較社会分析には当てはらない。つまり、もっとニュートラルな時代の流れ(それがポストモダンとよばれている言語)が、極めて精巧な正当化メカニズムを形成している。したがって、我々は平等、公正といった言説で反論できなくなっている。 3、イギリスにおける事例研究では、保守対労働という二元的葛藤論では説明できない段階にきていると結論できる。しかし、結果として生まれる教育システムは、コンプリヘンシブ以前のかなり階層格差のシステムになることが予測される。 4、日本における事例研究では、イギリスから20年ほど遅れて、我が国が平等原理から自由選択原理へと移行しつつあることが分かった。我が国で議論されている学校選択制をめぐる対立を分析した結果、社会の転換期に現れる「ユートピア言語」として市場化論が支持されていることが分かった。したがって、学校選択反対論はユートピア提示がなされていない点で、やがて正当性を失っていことが考えられる。 この研究で残された課題として、現代社会の潮流である、情報化、グローバル化といった言説の構造を今後解明していく必要性があると考えられる。
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