本研究は、イギリスの学校選択制度が学校教育の質・水準の向上に資するのか否かを、実証的に明らかにすることを課題とするものである。 初年度は、各地方自治体での中等学校進学制度の分析を行った。すなわち、イギリスの地方教育当局の発行した、進学手続きに関する父母向けの手引き書を収集し、中等学校進学制度の最も基本的な構成要素である、選抜制の有無、通学区域の設定に関して、志願者が定員を上回った場合どのような志願者を優先して入学させるかという優先基準について、分析を行った。 第2年度は、イギリスの中等学校(公費維持学校:maintained schoolおよびグラント・メインテインド・スクール:grant-maintained school)の学校長1200校を対象として、調査票を作成し、送付した。なお調査票の作成に先立ち、初年度の成果である各地方教育当局の中等学校進学制度の類型化をもとに、対象とする地方教育当局を選定し、都市・地方および様々な進学制度を有する当局が含まれるようにした。 最終年度は、学校選択の自由化に関する調査票の回答結果についての分析を行った。分析の結果、以下の諸点等が明らかになった。(1)学校選択の自由化によって、生徒の獲得競争が、イギリス各地でひろくみられること。(2)生徒獲得競争に勝利した学校と破れた学校を比較すると、勝者は、学校選択の自由化が生徒の学習への利益をもたらし、教育水準が向上したと評価する傾向があるのに対し、敗者は、否定的傾向があること。(3)スタッフのモラールについても勝者は向上したと評価する傾向があるのに対し、敗者は、否定的であること。(4)学校は、生徒の父母を、パートナーとしてよりも、消費者としてみるようになったこと。(5)敗者となった学校は、貧困層が多く通う傾向があること。(6)敗者となった学校で、特別の教育の必要性への対応が困難になった。
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