1970年代末以降の中央集権的な計画経済体制から市場経済体制への移行にともない、中国では高等教育の改革がドラスティックに展開されてきた。しかし経済市場化への道程が様々な曲折を経たように、高等教育改革の経緯は必ずしも単調なものではなかった。本報告書では、過去20年間における改革を概観し、それがどのような段階をふみ、またどのようなベクトルを含んでいたのか、そして現段階での課題がどのように捉えられているのかを分析した。 中国の高等教育改革にはいくつかの重要なベクトルが存在した。まず第1のベクトルは、制度化・組織的整合化である。高等教育制度についての原則を明文化された法律によって規定することがまず、改革の基礎だったのである。第2のベクトルは効率化・重点化である。一方では、高等教育機会への要求の拡大に対応するために、高等教育システムの効率化が求められてきた。他方で、高度の教育研究を達成するために、「重点大学」に限られた資源が集中的に投資された。第3のベクトルは市場化、規制緩和である。授業料の導入、私立大学制度の設立、大学の卒業生が自ら就職先を決定する制度がスタートした。 ただし、この20年間の高等教育改革の経緯を振り返ってみると、上記の三つのベクトルでの変化がすべて順調に進んでいるわけではないことに気づく。特に財政資源の獲得については、経済成長の動向次第では深刻な問題が生じる可能性がある。また費用負担と教育機会の均等の問題はまだ解決されているわけではない。そして、市場化・規制緩和に関しても、たとえば、私立大学についての規制・振興政策はこれから検討されなければならない。卒業生の労働市場を介しての就職についても問題が少なくない。解決するべき問題はむしろ大きくなっているといわざるを得ない。
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