本研究の2年次である平成10年度においては、初年度に引き続き、石川県加賀市及び同羽咋郡富来町において、数次にわたる実地調査を行ったが、たまたま平成10年1月に発生したロシア船籍タンカーの重油流出災害が調査地に及んだため、住民の対応に関する調査を行う必要が生じ、はからずも本研究の当初の計画を発展的に展開する結果となった。すなわち、基本的な方向として、生活の基本単位としての世帯と、その成員としての個人、世帯が構成する社会の最小基本単位としての集落の関係の変遷をおおむね1950年以降のタイムスパンで把えるための実証的資料を、実地調査を通して収集し、分析するという点では前年同様であるが、今年度は特に重油流出のような災害に対し、集落のさまざまのタイプの世帯、さまざまな世代、職業、役職等の属性をもつ個人が、どのように対応するかという、やや特殊ではあるが、それだけにきわめて具体的に個別性が鮮明になる場面での分析が可能になった。要約すれば、農・漁村的集落レベル共同体意識は現在の中・高年齢層には、危機的場面において強固に発現し、行政等もそれに依存せざるをえない実情があるが、しばしばそれは近代的個人の市民意識を前提とするいわゆる、ボランティア活動とすりかえられ、ないし混同される、このギャップには、特に若年層が敏感に反応するように見うけられる。これらの結果については、なお予報的な段階であるが、11に記した諸論文で報告している。また本年度の調査では農・漁村集落の結節点となる地方小都市の調査に着手しており、いわゆるムラとマチの関係のありかたの分析を試みはじめているが、その成果は次年度にまとめる予定である。
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