研究概要 |
本年度は,岡山県下の以下の村落においてフィールドワークを実施,聞き取り調査によって牛馬飼養をめぐる民俗諸慣行についての資料収集に務めた。 (加茂町)原口,国木,青柳,塔中,倉見(津山市)西一宮,福力(久米町)桑上(旭町)友重(鏡野町)中谷,瀬戸東,河本,真経,百谷,越畑(富村)篠坂(湯原町)見明戸,大谷(八束村)上在所(勝山町)月田,上明賀,星山,神庭,見尾(久世町)余野,樫西,中島(落合町)西河内, 田原,田原山上,西谷,上河内,宮の上,大谷小宗(北房町)谷尻(美甘村)平島,寄水,湯谷上(新庄村)二ツ橋,野土路(新見市)菅生(哲多町)本郷(神郷町)高瀬,上油野 岡山県の場合,北部の中国山地と南部平野部は和牛の飼養形態において著しい対象を見せている。阿哲郡,真庭郡,苫田郡は和牛の放牧の盛んな地帯であるが,ここで生産された牛は,南部の平野部で肥育され,再び北部に売却されて水田の耕耘に使役された。このような牛の移動を仲介していたのが博労であり,生産地帯の博労は,南部の博労とパートナーを組んで牛を商っていた。また北部と中・南部の間では,かってはクラシタと呼ばれる牛の賃貸しも大規模に行われていた。その意味では,牛をめぐるネットワークは県レベルに広がっていたと言える。 岡山県の中国山地では,牛馬守護神の信仰も盛んであった。ほぼ全域的に信仰されていたのは荒神と大日如来である。荒神は村組の産土神的な神として祀られているが,同時に牛馬の守り神として信仰されている所が多い。大日如来の石塔は,苫田郡の山間部に特に密に分布している。新庄村から美甘村にかけては,島根半島七類の大日講を通じて大日信仰が浸透している。美作地方で一般的に牛の神といえば中山神社で,津山市を中心に講社組織によって信仰圏が作られている。局地的に信仰されている牛の神としては,車戸神社,賀野神社がある。勝山市近辺では,猿との付会によるものであろうが,庚申が牛の神として信仰されており,上明賀や美甘村宇南寺の庚申堂は以前には厚い信仰を集めていた。
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