本研究の目的は、フィリピンのキリスト教会イグレシア・ニ・クリスト(Iglesia Ni Cristo)の日本における近年の宣教過程を明らかにすることにある。同教会は1914年にマニラで、フィリピン人フェリックス・マナロにより創始され、三位一体を否定し、創始者を「神の最後の使い」とする独自の神学を保持、現在フィリピン総人口の5%(推定)が信者である。1968年にハワイに最初の支部教会を設立したのをかわきりに、フィリピン人の海外移住者、海外出稼ぎ労働者の増加にともない世界各地に教会を形成してきた。1996年には57カ国に162支部教会、179信者集会をおいている。 日本では1980年の時点で、7カ所(東京、横浜、三沢、岩国、佐世保、沖縄)に信者集会がおかれていたが、ほとんどが在日米軍基地に勤務するフィリピン人、フィリピン系アメリカ人を中心とするものだった。しかし、70年代末以後の在日フィリピン人の増加、日本人との国際結婚の増加により、国内各地に信者集会が形成され、そのなかから支部教会が新たに設立されるようになった。1996年現在で16信者集会、9支部教会(千葉、群馬、浜松、茨木、名古屋、大阪、岡谷、大阪、東京)が報告されている。支部教会は原則として教会堂を持ち、牧師が配置され、フィリピンの本部との緊密な連絡のもとに礼拝が行われている。信者のほとんどはフィリピン人とその日本人の家族が中心であり、在日アジア系のキリスト教会として機能している。宣教および牧会の対象が事実上はフィリピン人とその家族に限定されている点では、創立以来の「フィリピン人のキリスト教会」としての性格が濃厚だが、今後非フィリピン人の信者が増加すれば、典礼(礼拝でフィリピン語を用いるなど)や教会運営の面での変化が予測される。本研究の成果は、寺田勇文編『東南アジアのキリスト教』(仮題、めこん社、2000年春刊行予定)に収録される。
|