世界的規模で進められている開発や産業振興政策、金融政策は小社会に様々な構造変化をもたらした。特に、日本では過疎化と高齢化が深刻な問題であるが、同時に地域の活性化や故郷意識の高まりも起こりつつある。これらの問題意識で西北から南九州域の漁業の変化に関連させて、地域間関係の歴史的把握と村落構造の実態調査を実施した。調査地域は以前より調査を実施していた甑島の各村落に加え、今後の実態調査地の設定を視野に入れて天草、薩摩半島枕崎周辺、串木野市を中心に行なった。甑島以外の各地は特に漁業の変遷と海村の現状、地域振興策の一環としての活動などに関する情報を収集した。枕崎では遠洋漁業と鰹魚の歴史を活かした様々な施設が建てられ、漁業の町としてのイメージを打ち出している。坊津では鑑真和上との関係や中世から近世にかけての貿易港の伝統を地域の活性化に活かす試みがみられる。串木野市においては漁業の町のイメージだけでなく、薩摩藩時代の金山や薩摩修験の山岳信仰の伝統と彳福伝説とを結びつけた冠岳周辺の観光開発が行なわれている。かつてのこの地域の漁業活動の中心基地であった天草・牛深では漁業の振興と西北九州域の航路の開発が意図されている。甑島では特に下甑島と中甑島との間の架橋工事が具体化しつつあり、これと歩調を合わせた各村ごとの活性化のための対策が企画されている。特に下甑島においては、架橋実現後も本土から最も遠いという立地から、村のイメージを明確化する対策が討議されており、この流れの中で、砂浜へのウミガメの産卵と来訪神信仰を基礎とする世界観をもとに竜宮の里構想が実行され、これにちなむ「こしきフェスタ」が近年行なわれている。これら、行政サイドの実行計画は必ずしも住民の側には理解されておらず、行政と住民との乖離が問題である。今後はこれらの開発・発展・地域振興という一連の動きと住民との関係を村落をベースとした実態調査をもとに比較研究を進めていく必要性が明らかになった。
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