本研究では開発や産業振興政策などが小社会にいかなる構造変化をもたらしているかというテーマで昨年度に引き続き甑島と西九州の沿岸域で実態調査を実施した。具体的な地域と課題は1)薩摩半島の枕崎・坊津における鰹漁の変遷、両地区における地域活性化の取り組みの様相に関する調査(1998年9月8日〜9月14日)、2)下甑島西岸域・北西岸域における住民の活性化への取り組みに関する調査(1998年10月22日〜26日)である。また、1999年3月21日〜30日には下甑島瀬々之浦地区(鹿児島県薩摩郡下甑村瀬々之浦)を重点調査地に設定し、漁業の変遷や過疎化、高齢化に対応した年中行事や信仰生活の変化、家族・親族構造の変化に関するインテンシヴな調査を予定している。これはすでに実施した西岸の片野浦との比較研究を目的とするものでもある。下甑島の東岸は近世期から近畿との交流が盛んで、各地から商人や漁民がやってきた。しかし西岸は特に西北からの季節風の影響を直接受けることと、断崖絶壁が多く良港に恵まれぬため、住民の多くは漁業出稼ぎを行っていた。昨年度と今年度で甑島を中心とする人々の流れから地域史の再構成と各地の「地域おこし」の動きをみてきた。これらの成果をふまえ、次年度では甑島住民が移住した地区のひとつである串木野市を中心とした調査を実施し、九州西北から西南域にかけての漁業を基礎とする社会史の再構成を行い、報告書にまとめていく予定である。
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