本年度の調査研究は、北海道西南部を中心にして産の神として認識される水神信仰の実態調査をおこなった。特に、明治5年におこなわれた道南部の社寺調査にみられる祭神の縁起と分布に着目して、水にかかわる神として信仰のある神社の抽出をおこなったのである。 このデータを元に、近世中期から明治初期にわたる北海道南部における水神の地域的、時代的特徴を整理した。あわせて道南地域以外にオホーツク海沿岸地域(枝幸町)の神社祭祀について調査をおこなった。その結果、北海道南部には川の下流域を祀るという川下(川裾・川濯)神社が多く分布していることが理解できた。そして、この神社の祭祀には、安産祈願の呪術が含まれており、お産の神様という認識が高まっていたのである。しかし、その反面に水無月祓などの大祓の神事が消失していたのである。 一方、近畿から北陸地方にかけては、水神信仰のひとつとしてカワソ(カワスソ・カワソソ)祭りが定着している。この祭祀をおこなっている寺社の所在調査を、兵庫県、鳥取県、島根県の日本海沿岸と琵琶湖周辺の地域においておこない、あわせて信仰形態と祭祀方法について調査した。これらは、婦人病や下の病に霊験があるとされているが、祭祀の中心は水無月祭であった。 北海道南部と近畿・北陸地方のカワシモ祭およびその神社縁起について比較すると、近世期には但馬・若狭地方だけでなく北海道南部においても水無月祓がみられていたのである。しかしながら北海道では、水神と産の神をあわせもった信仰形態と変化したのである。この北海道的な特長は、幕末から近代にかけて培われた可能性がある。 このことから、次年度においては水無月祓をカワスソ、川祭および水神について、それぞれの相互関係を整理・分類したいと考えるものである。
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